完結記念に発行した初版限定特典・おまけ小冊子に収録した絵とSSです。第二版以降は本紙「背徳の堕天使 2巻」の巻末に収録されています。初出:2018年10月

背徳の堕天使の結末ネタバレあり、両翼少年協奏曲と同じ時系列。 本編未読の方で結末を知りたくない方はSSの閲覧ご注意ください。なお、キスしかしてません。ミルクより甘く、幸せラブラブな二人です。


 

甘味は夜のお楽しみ

今日の晩御飯も美味しかったよ、と笑顔で感想を述べれば、だいたいいつもしたり顔で「あったりまえだろ」と自慢してくる義弟が毎度のことながら可愛すぎて困る。一度あの姿を写真にとって保存したい。

「光は和食が特に上手だよね。今日の里芋の煮物は三ツ星料亭より美味しかった」

「今頃そんなすごい褒められても、もうなんも出ねえぞ。食後のコーヒーならもう作っただろ」
「いや。たまには俺から、作ってもらったご飯のお礼がしたいんだけどな」
「へーえ、ほうぉ」

何かご褒美買ってもらえるのか、と期待の眼差しでこちらを見つめる今西光を眺めながら、相羽勝行は「何が欲しい?」と先手を打って聞いてみた。

「時間的に、今はコンビニで買えるものが助かるかな」
「うーん、そうだなあ」

片づけを終え、食後のカフェオレに口をつけながら、光は台所から出てきた。

「キスがいいかな」
「――え?」

思いもよらない答えがするっと返ってくる。勝行は思わず呆けた顔で聞き返した。

「ちょっとプレミアム豚まんも捨てがたかったんだけど」
「豚まん……」
「やっぱ甘いモンが欲しくなるからさ、夜は特に」
「……」

豚まんとキスが同レベルで出てくることもよくわからないのだが、「甘いもの」がどうしてキスになるのか。甚だ疑問にしかならない。
飲みかけのカフェオレのマグカップを机上に置くと、光はものすごく複雑怪奇な顔をしたまま黙りこくっている勝行の隣に座り込んだ。レザー製のソファの座面が適度に沈み込み、その身体は勝行の太ももに凭れるかのようにしな垂れてくる。

「なあ、いいだろ?」

全くもって色気の欠片もない、子どもみたいなおねだりがよりにもよってキス。

「いい、けど……そんなのでいいの。キャンディとか……ケーキは? いらないの」
「買いにいくのメンドクサイし」
「なら、片岡さんに買ってきてもらうよ」
「お前さりげなく使用人をこき使ってんじゃねえよ」
「あ、あっ……と、待て、危ないって、バカ」

急にぐい、と腕を掴まれて勝行は慌てた。淹れてもらった食後のコーヒーを手に持ったままだったからだ。冷めかけのコーヒーを飲み干してカップを机に置くと、勝行は安堵のため息をついた。だがここで落ち着いている場合ではない。

「キスって言っても、いっつもおやすみのキスならしてるじゃないか」
「だからあ、それとは違うやつがいいんだよ」
「ちがうやつ……って……」

言いかけて勝行の頬は真っ赤に染まった。そうか、そういうことか。いつも流されて押し切られてばかりだから、そろそろさすがに予見できた。この手のパターンで強請られるキスといえば、あれだ。

「気持ちいいやつがいい。甘ったるいの」
「俺のキスって……そんなに甘いの?」

そもそもキスに味なんてあるのかな。そう思いながらふとした疑問を尋ねると、「ああ、今コーヒー飲んでたからきっとコーヒー味だな」と楽し気な返事が返ってきた。

「そういう言い方されると、なんかほんとにスイーツみたいだな」
「だろ? 俺にとってはスイーツみたいなもん」

いっぱい食べてもお腹痛くならないし、虫歯にならないし!
俺のひらめき、すごくね?
変なところでいつものドヤ顔を見せられて、思わずンンッと悶絶しそうになる。でもどうせやるなら本当は可愛い女の子とキスする方が絶対好きだ。好きだ……と思っていたけれど、どうやら本心はそうでもないようで。

(ダメだオレ……ほんっと、この強気で偉そうな光に弱すぎる)
だから甘いって言われるのかもしれない。どこまで我慢できるかわからないが、頼むから勃つなよ俺の下半身、これは光の遊びだ、と呪いのような戒めをかけてから、勝行は彼の身体をついと抱き寄せた。
全くもって抵抗しない細身の肢体は、勝行の上に覆いかぶさると、嬉しそうに抱きついて密着してくる。金色に染まる細い前髪とエメラルドグリーンのエクステが、混じりあいながら目の前で揺らめいていた。

「じゃあどこにお礼のキス、されたい?」
「えっと……ここ。首んとこと……クチと……」

耳元で優しく囁くと、素直に希望を伝えてくる光の唇を己のそれでやんわり突いて塞いだ。驚きつつも、嬉しそうにふにゃりと蕩けて、自ら吸い付いてくる光が可愛くて――エロい。

「あと、耳も?」
「……ふ、あ、ぅ……っ」
「――声出したら、片岡さんに聴かれちゃうよ」
「んっ……ん……ぁ……もっと……もっかい……それ」

指の腹で耳朶を撫でるだけで、びくんと背を反らす。相変わらず感度がよすぎて度が過ぎた悪戯を仕掛けたくなる、暴力的な色仕掛けだ。こんなものに負けてたまるか。

――でも、やっぱり可愛くて仕方ないから、少しだけは好きに味わせてもらうよ。
首筋を舐めては吸い付き、白い肌に甘噛みをし、耳をやわやわと揉みながら唇に絡みつくと、抱きついたまま恍惚とした表情でキスを貪る光の身体を落ちないよう支えた。

どうやら彼も美味しそうで、ご満悦のご様子。何よりだ。
気づけば勝行の方が夢中になって何度も舌を絡め、下半身の疼きが止められなくなる。でもキスを散々したら気持ちよすぎて寝てしまう体質の光のことだ。きっとこのしつこく這わせ続けている唇を離した瞬間、彼は――。

力尽きて腕の中に倒れ込む光を抱きしめながら、その柔らかい髪を何度も梳いた。甘ったるいとはよく言ったもんだ。恋愛ドラマでこんなシーンがあるとしたら、そりゃあもう目も当てられないぐらいに甘い光景なんだろう。そして光は、こうやってぐずぐずに甘やかされて、可愛がられるのにどうやら弱いらしい。今夜も簡単に堕ちた天使の寝顔を眺めながら、勝行はもう一度その首筋にキスを落とした。じゅう、と音を立てて噛み付くように。

それは甘くて愛おしくて、可愛くて――でも半永久的に毎日食べられる、特上のスイーツ。

「ごちそうさま」

甘くて美味しい、俺だけのデザート。
もう二度と、他の誰にも食べられませんように。

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